口腔ケア

自立の口腔ケア

●高齢者の口腔内の特徴に合わせた口腔ケアが大切です


歯根ウ蝕
歯肉退縮に伴い歯根面が露出する。
この部分は軟らかく歯垢も付着しやすいため、高齢者のウ蝕の好発部位で在る。
鏡が活用できる場合は、歯ブラシの毛先が歯と歯肉の境目に当たっているか自分で確認しながらみがく。
歯周病の進行
歯肉が退縮すると歯間部に食物残渣や歯垢が付着しやすくなり、歯周病を悪化させる原因となる。
ホルダーが長く、容易に挿入できるよう角度のついた歯間ブラシで臼歯部内側からも清掃する。
孤立歯や鈎歯
義歯のバネのかかる歯(鈎歯)は負担が大きく不潔になりやすいため、ウ蝕や歯周病の好発部位である。
孤立歯は柔らかく大きな歯ブラシで、歯の裏側まで包むようにみがく。



高齢者に合った歯ブラシを使う
・高齢者は歯みがきの巧緻度も低下し歯肉も弱くなる。効率的にみがくためにも
1.持ちやすい太めのハンドル
2.状態によっては大きめの植毛部
3.歯肉を傷つけない柔らかい毛先
の歯ブラシを選択する。
・麻痺がある場合は、強い力が加わりやすいので歯肉や粘膜を傷つけてしまう危検があるため、上肢の動きに注意する。
・歯肉退縮のある高齢者のウ蝕予防には、特にフッ化物配合歯磨剤が効果的である(ウ蝕抑制率67%.,Jensen)。

歯間ブラシで爽快感をもたせる
・高齢者でも歯間ブラシの使用により歯肉の早期改善や爽快感を体験できる。
歯肉に炎症がある場合の出血については、その理由についても説明する。
・殺菌剤入りの液体歯ミガキを歯間ブラシに塗布して使用すると口臭も防ぐことができて、さらに効果的。

ONE POINT!
孤立歯や残存歯は柔らかだけでなく、周囲の口腔粘膜も清掃しましょう。


一部介助の口腔ケア

●持てる力を最大限に生かし、自立を支援することが大切です

1.握力が弱い場合は持ちやすい工夫を


【作成方法】
・個人トレー用即時重合レジンなどで歯ブラシの柄を太くする。(レジンが固まる前に本人に握ってもらい、持ちやすく手形をつけると効果的)
・手が口元まで届きにくい場合は柄を長くする。(重くならないように柄の中を空洞にする)

【作成の留意点】
・太さや形は手の大きさなどに合わせて、本人と相談しながら作成する。
・歯ブラシの毛先が開いたら取り替えられるように、取り外し可能なホルダーにする。
・歯ブラシに角度をつけると「みがきやすい場所」と「みがきにくい場所」ができるため、なるべく避ける。
・柔らかい材料(ホース、スポンジ)より硬い方が握りやすく、みがきやすい。

2.上手に動かせない場合は電動ブラシの活用を

【口腔清掃の道具としての活用】
●電動ブラシのメリット
1.細かい動きが困難な場合や、手首の動きが悪い場合有効。
2.柄が大きくて長いため持ちやすい。
3.歯みがきの効率が高く、本人や介助者の負担が軽減できる

●高齢者・障害者への電動ブラシの選択基準
1.優しい動き 2.柔らかい毛先 3.細長いネック
4.軽くて太めのハンドル 5.押しやすい電源スイッチ

【リハビリの道具として活用】
・歯ブラシの背面を活用して口輪筋や口唇を刺激して、筋緊張を正常化する。(筋機能訓練)※右上写真
・口腔内の麻痺や痙性がある場合に、振動を活用して口の中の感覚や動きを刺激する。



「介助者によるケア」の留意点
※指導の際は、本人と介助者の役割分担を明確にして、
介助者の大きな負担にならないよう注意する。


自立みがき
本人の口腔ケアを温かく見守り
観察する。


介助者によるケア
小さい歯ブラシや歯間ブラシで
本人ができない部分のみを支援する。



左:小さい歯ブラシで介助者みがきのケア
右:介助者による歯間清掃



全介助の口腔ケア


●安全で安楽な姿勢で、誤嚥に細心の注意をはらいましょう

1.口腔ケアの準備と姿勢


準備を整えてから…
・疲れないように手早く行うために、事前の準備をすべて整えてから始める。 ・唾液などで衣服が汚れないように、横になっている場合はタオルなどを肩の下から口元に当てる。
誤嚥防止のための姿勢…
・座位がとれない場合、30度から45度の角度で起すと疲れにくく誤嚥を防ぎやすい。
・ずり落ちないように枕や毛布などで体の安定を確保する。
・麻痺や意識障害があって起こせない場合は、体ごと横に向け(側臥位)、誤嚥を防ぐ。
・側臥位も無理な場合は、頸部を患側に向けて咽頭部を狭くして誤嚥を防ぐ。

ONE POINT!
片麻痺の場合に側臥位では、健側と麻痺側どちらが上?
■健側が上の利点
・本人が歯みがきできる場合、健側の上肢を動かしやすい。
■麻痺側が上の利点
・歯みがきの泡立による、誤嚥の危険が少なくなる。
・自然な排唾を促し吸引を併用しやすい。口腔ケア中に唾液や汚水が流出し、寝具を汚しにくい。


2.口腔ケアの実際

●歯みがき
細菌のかたまりである歯垢は、うがいや清拭だけでは取り切れない。


開口しにくい場合
脱感作で筋緊張を取り除く。できる部分から徐々に全体へ。(歯肉や粘膜を傷つけないように観察しながら実施)
歯垢量が多い場合
歯ブラシについた歯垢はコッフの水で洗いながらみがく。
(誤嚥しないように余分な水をガーゼで取り除きながらみがく)
炎症がひどい場合
極めて柔らかい歯ブラシで撫でるようにみがく。(介助者に出血部位に対する説明をする)
片麻痺の場合
麻痺側は感覚の低下によって食物残渣が溜まりやすい。(介助用の小さい歯ブラシで奥から手前にみがく)

●うがい(含漱) うがい(含漱)は歯みがきの補助だけではなく口腔周囲の筋肉のリハビリにもなる。

【安全なうがいを行うために】

●自分でうがいができる場合=洗口   ●自分でうがいができない場合=洗浄
  1. 水のみやストローの先端を口角から入れ、うがい水を静かに含ませる。(誤嚥を防ぐために1回20~30ml)
  2. できるだけ口腔全体に行きわたるようすすがせる。
  3. ガーグルベースンを頬に密着させ、水を出させる。
  4. 一回ごとに頬をタオルで拭いて、数回繰りかえす。
  5. うがいの後は咳払いを2~3回させて咽頭部の残留水を除去し、むせや誤嚥を防止する。
  1. 顔を手前に向けガーグルベースンを頬に当てる。
  2. 吸引器のカテーテルを口腔内下の臼後三角付近へ挿入する。
  3. 注射筒などに15~20ccのぬるま湯を入れ口腔内に行きわたらせ、柔らかい小さな歯ブラシなどで洗い流す。

注意1)吸引を併用して誤嚥がないように注意する。
注意2)嚥下障害や意識障害が強く、気道確保ができない場合は実施しない。

ONE POINT!
口腔周囲筋のリハビリ
水を少なめに含み、全体に行きわたるように、左右、前後と頬を動かしてうがいをします。これによって、口腔周囲筋群の運動訓練が行えます。誤嚥の心配がある場合は、水を含まないで実施しましょう。



●口腔清拭
口腔内に創がある場合や洗口ができない場合の歯みがきの後に、巻綿子やガーゼで口の中を拭き取る。

清拭の方法

1.左図の矢印の方向へガーゼなどで除去していく。(誤嚥を防ぐために奥から前へ清拭する)
2.舌や口蓋も清拭することにより清涼感が増して口臭予防に役立つ。
3.清拭液はデンタルリンス(液体ハミガキ)を使用すると爽快感が得られる。
その他、イソジンガーグル液やお茶なども効果的。

注)清拭だけでは歯垢の除去は十分とはいえない。可能な限り歯みがきをすることが望ましい。



ONE POINT!
誤飲した場合はどうする?
誤飲して咳が止まらず息苦しそうなときは、深呼吸したり背中をさすったりしてあげましょう。
また、温かい飲み物を少量飲むのも効果的です。




資料提供:ライオン歯科材株式会社/(財)ライオン歯科衛生研究所
  • 院長: 波多野 一
    住所: 〒154-0023 世田谷区若林4-31-9 ポライト第2ビル1F
    TEL: 03-3421-4182(ヨイハニ)
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    休日: 水曜、日曜、祝日