インプラント治療 注意点は

歯周病などで自分の歯を失った後、あごの骨に埋めた金属に人工の歯を装着する「インプラント」を選ぶ人が増えている。入れ歯のような違和感がなく、自分の歯のように噛めるが、公的な医療保険は適用されないため治療費は高額だ。インプラント治療に関する様々な疑問について専門家に聞いた。 (太田啓之)


人工歯30万円以上

人間の体には金属などの異物を排除する働きがあるが、チタンだけは骨の組織としっかり結合できる。

手術であごの骨にドリルで穴を開け、チタンでできたネジ状のインプラントを挿入する。インプラントと骨が結合した時点で2度目の手術を行い、インプラントの上に歯の土台を装着し、その上に人工の歯をつける。最近では、1回の手術で仮歯まで入れる「1回法」と呼ばれる方法も普及している。

手術の成功率は95%以上だが、まれに体質的に合わない人もいる。

手術時に下あごの骨の中を通る神経を傷つけると、唇などにマヒが残る。07年には手術中に動脈を傷つけて大量出血し、患者が死亡している。

東京医科歯科大の春日井昇平教授によれば、手術前にCTスキャンであごの内部を把握すれば事故は避けられる。また、糖尿病の人や治療でステロイドを服用している人、骨粗鬆症の治療を受けている人の一部は、キズや骨の治りが遅く、手術が可能か慎重な検討が必要だ。

あごの骨が厚く、骨の密度も高い人はインプラントに向いているが、その逆の人はリスクが高まる。上あごの骨は比較的薄いので、下あごに比べてリスクは高い。

インプラントが上手く定着しない場合もある。骨に穴を開けるときに摩擦熱で組織を傷つけるなど手術時のミス、感染症などが理由だ。

東京都の40歳代の会社員は一昨年、2度インプラント手術を受けたがいずれも失敗した。インプラントを除去するまで激痛が続いた。医師からは再度の手術を勧められたが決めかねているという。

インプラントについては様々な技法がある。公的保険に基づく治療のように国のお墨付きがあるわけではない。

東京都北区にある岸病院高度インプラントセンターの下尾嘉昭センター長は「オール・オン・フォー」という新しい手法の専門家だ。1本のインプラントで一つの人工歯を支えるのがインプラントの基本だが、オールオンフォーでは全体の歯にかかる力を計算し、4本のインプラントで上あご、または下あごのすべての歯を支える。手術は1回で、そのときに仮の義歯を入れてすぐに噛めるようにする。

インプラントの創設者、スウェーデンのブローネマルク教授に学び、日本にインプラントを導入した小宮山彌太郎医師は2回法を基本とする。1回目と2回目の手術は3~6ヶ月間は空ける。「少しぐらい待っても、最終的に長持ちるす方がよい」という考え方からだ。また、安全性を考え全部の歯を支える際には最低5本はインプラントを挿入する。

厚生労働省や日本歯科医師会は「現状の保険診療で失った歯の機能回復は十分できる」とする。インプラントの保険適用は当面望み薄だ。

手術台や材料費、かみ合わせの調整代金などを合わせた総費用は東京医科歯科大で1本45万円。下尾さんのセンターで47万5千円。小宮山さんが院長の「ブローネマルクオッセオインテグレイションセンター」(東京都千代田区)では約60万円。一般の歯科医院でも30万円以上が相場だ。

春日井教授は「高額な治療なので、失敗したときに治療費を返却してくれるのか、それともしばらく置いて再手術してくれるのか、事前に確認することが重要」とする。


医師選び経験も目安

歯科医の技量には差がある。春日井教授によれば、外来患者の数人に1人は他の歯科医院での失敗のフォローを求めてやってくるという。
医師選びの参考基準として、下尾さんは「歯科医が自分の手に負えないときに頼る医師」「学術発表など研究活動をしている医師」という条件を挙げるが、一般の人が情報を得るのは難しい。学会が認めた専門医や認定医も実技試験はないことが多く、絶対的な基準ではないという。

インターネットにはインプラントに関する宣伝があふれているが、3人は「うのみにするべきではない」と口をそろえる。

医師の技量を測る目安として比較的信頼できるのが手術の経験数だ。春日井さんは「少なくとも50症例以上の経験があるのが望ましい。思い切って医師自身に聞いてみるのもよいのでは」と話す。

小宮山さんは「事前に治療についてきちんと説明してくれるか、治療を受けるかどうか判断する時間を与えてくれるか、が大切。セカンドピニオンを求め、さまざまな歯科医を訪れるのも有効」と話す。何度もレントゲン撮影を受けるのは好ましくないので、歯科医院に診察資料を貸してもらうとよい。

公的保険で歯科の診療報酬が抑えられる中、自由に価格設定ができるインプラントは歯科医院の貴重な収入源になっている面もある。安易にインプラントを勧める医師に惑わされず、慎重に判断したい。






2009年5月13日 朝日新聞 より


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